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— 改訂新版の発刊にあたって(本文から引用)


 初版発行からすでに13年余りが経過したが,その間,2011年には,本シリーズを基にした世界初の照明規格が成立し,更に,2016年には,本書の内容を基礎とするV-ISA Method(ビザ・メソッド)が,欧州で当時隔年開催されていた世界最大の展示会VISION 2016で、ディープラーニング等を凌いで,照明技術としては世界初となるVISION Award 第1位を受賞した。


 本書の内容をベースにしたV-ISA Methodとは,Variable Irradiation Solid Angle の略であるV-ISA,すなわち可変照射立体角による照射光と,観察光学系で形成される観察立体角との相対関係,すなわち立体角要素を一定にして最適化することにより,物体の持つ光物性の変化を,物体光の観察輝度に定量的に変換する技術である。


 一般に,物体光は,照射光の輝度に比例して明るさが決まる直接光成分と,物体面の照度に比例して明るさが決まる散乱光成分とから成り,その比率は,その物質の持つ特性や表面状態によって様々に変化する。したがって,その物体光の明るさを定量的に制御する為には,特に,その明るさに方向依存性がある直接光成分を定量的に捕捉し,なおかつ対象とする部分の光物性の変化をどのように観察輝度の明暗に変換するか,ということが極めて重要になる。


 ここで,視覚情報は光の変化様態を情報とするが,その変化様態の全ては,光の明暗に縮退されて検知しなければならない。なぜなら,少なくともこの三次元世界に於いては,光が物質と反応する際,光は,波としてではなく,粒としてしか反応しないからである。


 つまり,我々は,光のどんな変化を捕捉するのにも,光子の数,すなわち明るさの変化として,それを検知しなければならないということである。


 輝度と照度を均一にするには,例えば平行光を照射すれば,物体面の傾きが一定な場合,均一な照射条件を実現することができる。しかし,この場合,直接光の伝搬方向の変化を捕捉しようとすると,観察輝度は明るいか暗いか,すなわち,最大輝度か最低輝度かのどちらかになってしまい,少なくとも伝搬方向の変化に関わる光物性の変化を連続的に捕捉することが出来なくなる。


これでは,その他の光の変化要素である振動数,振動方向,振幅の変化も不連続となってしまう。なぜなら,光の全ての変化は,まず光を安定に捕捉できなければ,当然,捕捉できない部分の光の変化が欠落してしまうからである。


つまり,定量的な明暗変化を得るためには,光の4つの変化要素の内,伝搬方向の変化を安定に定量的に捕捉することが必要不可欠となるのである。


この最大輝度と最低輝度の間をどのように連続的に安定に捕捉するか,これを物体面の全ての点に対して均一に,照射立体角を自由自在に変化させることのできる可変照射立体角によって実現する技術が,V-ISA Methodなのである。


 単に,物体を明るくして,明るくなった物体を見る,という漫然とした視覚情報では,まずは定量的に光を捕捉するということが出来ないので,この状態で捕捉される光の変化の全ては,定量的に解析することが出来ないのである。


 人間の視覚は,人間の精神活動を司る高度なこころの機能として,心理量による官能評価でこれを成し遂げることが出来るわけだが,こころの無い機械にこれを肩代わりさせるためには,物理量のみでこれを処理する必要があり,そのためには,物体の光物性の変化を定量的に反映した画像が必須となる。


 これが出来ずに,従来然とした照明系と,景色を撮るのと同じ観察光学系によってマシンビジョン画像処理システムを構築していたのがこれまでのアプローチであり,それに人工知能的手法を適用してその景色の見え方のバラツキを克服しようとしていたのが近々の状況であろう。しかし,元となる画像情報が定量的でなければ,そのあとにいくら人工知能的手法を適用しても,原理的にそれを克服することは難しいことは,専門家でなくとも理解できるであろう。


 その意味で,V-ISA Methodの出現は,画像関連市場に全く新たな新風を吹き込むことになったわけである。


 これまで不可能だった画像の定量化を実現することができるという点に於いて,まさに,時代に要請されて,そのベースとなっている本書の改訂新版を組めたことに,心より感謝する。

          

2024年3月 増 村  茂 樹

















 
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